フランスの勲章を拒否した「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティ

フランスと日本、都会と田舎、中上級階級と庶民など、さまざまなはざまで生きてきた境界人であるため、他の人と違う視点を持った著述家として活動しています。コラム執筆などの依頼も請け負っております。

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「21世紀の資本」トマ・ピケティ フランスの日常
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格差問題の解決

フランス人 トマ・ピケティが、「21世紀の資本」の中でしている主張の一つであり、この本に書かれている内容は、あらゆる議論を大変革させつつあると言います。

2014年は経済書としては異例の大ヒットを飛ばし、日本でも12月にみすず書房から日本語翻訳が出版。

そして2015年1月1日、トマ・ピケティ氏は、フランスの最も権威ある「レジオン・ドヌール勲章」にノミネートされるものの

なんと、受け取り拒否

今夜はのフランスのニュースでは、もちろんその事が取り上げられていました。

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レジオンドヌール勲章拒否は政府批判の象徴

実は今ではアメリカでも日本でもすっかり有名なトマ・ピケテですが、本国フランスで2013年8月に最初に出版されたときはあまり注目されていませんでした。

と言うのも、「21世紀の資本」の中で、フランスのことをあまりよく書いてなかったためフランス人からは不評だったとか。しかし、その後アメリカが発売されるなり経済学の本には珍しく大ヒット。一方フランスでは、トマ・ピケティの協力者の名前を挙げて正しい事を書いてないと批判をしたことで反対に名前が知れ渡り、他の新聞社が絶賛するようになるなど有名になっていったと言う経緯もあります。

ということで、世界的に名前を上げた功績として、レジオンドヌール勲章の受勲候補にノミネートされることに。

が、

「だれに名誉を与えるか決めることは政府の役割ではない」
「政府はフランスとヨーロッパの経済回復に専念した方がよい」

と公的に、上記のような発言と共に、トマ・ピケティ氏は受賞を辞退しました。

勲章はフランソワ・オランド大統領から授与されますが、以前そのオランド大統領を「公約に掲げられた財政改革を怠っている」と政権運営を批判したこともあり、今回もその批判の一環でもあると見られています。。

レジオンドヌール勲章は、ナポレオンが1802年に創設したもので、フランスでも最高に名誉ある勲章。

フランスにはレジオンドヌール勲章を得た家系のみが入れるレベルが高い学校も存在すほどで、その名誉は家族にも及ぼすものとも言えます。しかし、仏政府への批判や無関心などを理由に、作家のカミュやサルトル、画家モネ、放射能の研究のキュリー夫妻、ブリジッド・バルドーなど数多くのフランスの著名人が拒んだ歴史もある勲章。

テレビのニュースで映し出される勲章を拒否した人々の多さには、反対に驚かされるほど。

トマ・ピケティ氏も拒むことで自分の意思表示としたのです。

「21世紀の資本」

しかしやはり気になるのが「21世紀の資本」の内容。

「富裕層に対する資産課税で不平等を解消しなければ中間層は消滅する」

18世紀から今まで、ヨーロッパとアメリカをはじめとする全世界のデータに基づいており、格差問題を考えさせる本。

700ページ余りの学術書で、経済的な格差を長期にわたって分析していて数字も少なく、経済の歴史書的面もあるため一般の人からも支持を受けた本であり、中間層が消滅する資本主義の未来は、格差が浮き彫りになってきた現在の日本人にも現実味を帯びた内容です。

本の中では、所得格差と富の集中の拡大と縮小、そして再拡大という流れを100~200年の時間軸で実証的に追いかけています。所得と資産の格差は、第一次世界大戦から1970年代までの間に縮小するのにもかかわらず、1980年以降、これら格差は再び拡大して100年前の状態に近づいている。

「米国における格差拡大が金融不安の一因となったのはほぼまちがいない」

先日OECDのニュースでも、所得格差が少ない方が国の成長が早いと言う研究結果がでていたところ。

2014年12月9日のOECDニュースによると「所得格差を是正すれば経済成長は活性化される」と最新の分析で示されたそうだ。所得格差の縮小している国は所得格差が拡大している国より速く成長すると分析されている。
【政府は所得格差の解消に動け】~非正規の待遇改善に期待~

日本も2003年ぐらいまでは所得格差が無い国でしたが、景気が停滞していく中、非正規雇用の規制が緩和して非正規が増え、人口が減少する中非正規の人数は変わらない代わりに正規社員が減っていき、現在は貧困家庭が増えるなど所得格差の大きい国になってしまいました。

そんな世界が共通の問題に陥っている中、トマ・ピケティの説得力ある主張に引き寄せられる人が多かったのでしょう。
今後、トマ・ピケティの主張は、いろんな機関で検証されていきます。

2015年も引き続き「21世紀の資本」の売れ行きの好調が続くのは間違いありません。

「21世紀の資本」

2014年12月より、日本語訳で読めるようになりました♪

21世紀の資本
トマ・ピケティ

経済的格差は長期的にどのように変化してきたのか? 資本の蓄積と分配は何によって決定づけられているのか? 所得の分配と経済成長は、今後どうなるのか? 決定的に重要なこれらの諸問題を、18世紀にまでさかのぼる詳細なデータと、明晰な理論によって解き明かす。格差についての議論に大変革をもたらしつつある、世界的ベストセラー。

目次

はじめに 
データなき論争?
マルサス、ヤング、フランス革命
リカード――希少性の原理
マルクス――無限蓄積の原理
マルクスからクズネッツへ、または終末論からおとぎ話へ
クズネッツ曲線――冷戦さなかのよい報せ
分配の問題を経済分析の核心に戻す
本書で使ったデータの出所
本研究の主要な結果
格差収斂の力、格差拡大の力
格差拡大の根本的な力――r>g
本研究の地理的、歴史的範囲
理論的・概念的な枠組み
本書の概要

第 I 部 所得と資本

■第1章 所得と産出
長期的に見た資本-労働の分配――実は不安定
国民所得の考え方
資本って何だろう?
資本と富
資本/所得比率
資本主義の第一基本法則――α=r×β
国民経済計算――進化する社会構築物
生産の世界的な分布
大陸ブロックから地域ブロックへ
世界の格差――月150ユーロから月3000ユーロまで
世界の所得分配は産出の分配よりもっと不平等
収斂に有利なのはどんな力?

■第2章 経済成長──幻想と現実
超長期で見た経済成長
累積成長の法則
人口増加の段階
マイナスの人口増加?
平等化要因としての人口増加
経済成長の段階
購買力の10倍増とはどういうことだろう?
経済成長――ライフスタイルの多様化
成長の終わり?
年率1パーセントの経済成長は大規模な社会変革をもたらす
戦後期の世代――大西洋をまたぐ運命の絡み合い
世界成長の二つの釣り鐘曲線
インフレの問題
18、19世紀の通貨大安定
古典文学に見るお金の意味
20世紀における金銭的な目安の喪失

第 II 部 資本/所得比率の動学

■第3章 資本の変化
富の性質――文学から現実へ
イギリスとフランスにおける資本の変化
外国資本の盛衰
所得と富――どの程度の規模か
公共財産、民間財産
歴史的観点から見た公共財産
イギリス――民間資本の強化と公的債務
公的債務で得をするのは誰か
リカードの等価定理の浮き沈み
フランス――戦後の資本家なき資本主義

■第4章 古いヨーロッパから新世界へ

ドイツ――ライン型資本主義と社会的所有
20世紀の資本が受けた打撃
米国の資本――ヨーロッパより安定
新世界と外国資本
カナダ――長きにわたる王国による所有
新世界と旧世界――奴隷制の重要性
奴隷資本と人的資本

■第5章 長期的に見た資本/所得比率
資本主義の第二基本法則――β=s/g
長期的法則
1970年代以降の富裕国における資本の復活
バブル以外のポイント――低成長、高貯蓄
民間貯蓄の構成要素二つ
耐久財と貴重品
可処分所得の年数で見た民間資本
財団などの資本保有者について
富裕国における富の民営化
資産価格の歴史的回復
富裕国の国民資本と純外国資産
21世紀の資本/所得比率はどうなるか?
地価の謎

■第6章 21世紀における資本と労働の分配
資本/所得比率から資本と労働の分配へ
フロー――ストックよりさらに推計が困難
純粋な資本収益という概念
歴史的に見た資本収益率
21世紀初期の資本収益率
実体資産と名目資産
資本は何に使われるか
資本の限界生産性という概念
過剰な資本は資本収益率を減らす
コブ=ダグラス型生産関数を超えて――資本と労働の分配率の安定性という問題
21世紀の資本と労働の代替――弾性値が1より大きい
伝統的農業社会――弾性値が1より小さい
人的資本はまぼろし?
資本と労働の分配の中期的変化
再びマルクスと利潤率の低下
「二つのケンブリッジ」を越えて
低成長レジームにおける資本の復権
技術の気まぐれ

第 III 部 格差の構造

■第7章 格差と集中──予備的な見通し

ヴォートランのお説教
重要な問題――労働か遺産か?
労働と資本の格差
資本――常に労働よりも分配が不平等
格差と集中の規模感
下流、中流、上流階級
階級闘争、あるいは百分位闘争?
労働の格差――ほどほどの格差?
資本の格差――極端な格差
20世紀の大きなイノベーション――世襲型の中流階級
総所得の格差――二つの世界
総合指標の問題点
公式発表を覆う慎みのベール
「社会構成表」と政治算術に戻る

■第8章 二つの世界
単純な事例――20世紀フランスにおける格差の縮小
格差の歴史――混沌とした政治的な歴史
「不労所得生活者社会」から「経営者社会」へ
トップ十分位の各種世界
所得税申告の限界
両大戦間の混沌
一時性のショック
1980年代以降のフランスにおける格差の拡大
もっと複雑な事例――米国における格差の変容
1980年以降の米国の格差の爆発的拡大
格差の拡大が金融危機を引き起こしたのか?
超高額給与の台頭
トップ百分位内の共存

■第9章 労働所得の格差
賃金格差――教育と技術の競争か?
理論モデルの限界――制度の役割
賃金体系と最低賃金
米国での格差急増をどう説明するか?
スーパー経営者の台頭――アングロ・サクソン的現象
トップ千分位の世界
ヨーロッパ――1900-1910年には新世界よりも不平等
新興経済国の格差――米国よりも低い?
限界生産性という幻想
スーパー経営者の急上昇――格差拡大への強力な推進力

■第10章 資本所有の格差
極度に集中する富――ヨーロッパと米国
フランス――民間財産の観測所
世襲社会の変質
ベル・エポック期のヨーロッパの資本格差
世襲中流階級の出現
米国における富の不平等
富の分岐のメカニズム――歴史におけるrとg
なぜ資本収益率が成長率よりも高いのか?
時間選好の問題
均衡分布は存在するのか?
限嗣相続制と代襲相続制
民法典とフランス革命の幻想
パレートと格差安定という幻想
富の格差が過去の水準に戻っていない理由は?
いくつかの部分的説明――時間、税、成長
21世紀――19世紀よりも不平等?

■第11章 長期的に見た能力と相続
長期的な相続フロー
税務フローと経済フロー
三つの力――相続の終焉という幻想
長期的死亡率
人口とともに高齢化する富――μ×m効果
死者の富、生者の富
50代と80代――ベル・エポック期における年齢と富
戦争による富の若返り
21世紀には相続フローはどのように展開するか?
年間相続フローから相続財産ストックへ
再びヴォートランのお説教へ
ラスティニャックのジレンマ
不労所得生活者と経営者の基本計算
古典的世襲社会――バルザックとオースティンの世界
極端な富の格差は貧困社会における文明の条件なのか?
富裕社会における極端な能力主義
プチ不労所得生活者の社会
民主主義の敵、不労所得生活者
相続財産の復活――ヨーロッパだけの現象か、グローバルな現象か?

■第12章 21世紀における世界的な富の格差

資本収益率の格差
世界金持ちランキングの推移
億万長者ランキングから「世界資産報告」へ
資産ランキングに見る相続人たちと起業家たち
富の道徳的階層
大学基金の純粋な収益
インフレが資本収益の格差にもたらす影響とは
ソヴリン・ウェルス・ファンドの収益――資本と政治
ソヴリン・ウェルス・ファンドは世界を所有するか
中国は世界を所有するのか
国際的格差拡大、オリガルヒ的格差拡大
富裕国は本当は貧しいのか

第 IV 部 21世紀の資本規制

■第13章 21世紀の社会国家

2008年金融危機と国家の復活
20世紀における社会国家の成長
社会国家の形
現代の所得再分配――権利の論理
社会国家を解体するよりは現代化する
教育制度は社会的モビリティを促進するだろうか?
引退の将来――ペイゴーと低成長
貧困国と新興国における社会国家

■第14章 累進所得税再考
累進課税の問題
累進課税――限定的だが本質的な役割
20世紀における累進税制――とらえどころのない混沌の産物
フランス第三共和国における累進課税
過剰な所得に対する収奪的な課税――米国の発明
重役給与の爆発――課税の役割
最高限界税率の問題再考

■第15章 世界的な資本税

世界的な資本税――便利な空想
民主的、金融的な透明性
簡単な解決策――銀行情報の自動送信
資本税の狙いとは?
貢献の論理、インセンティブの論理
ヨーロッパ富裕税の設計図
歴史的に見た資本課税
別の形態の規制――保護主義と資本統制
中国での資本規制の謎
石油レントの再分配
移民による再分配

■第16章 公的債務の問題
公的債務削減――資本課税、インフレ、緊縮財政
インフレは富を再分配するか?
中央銀行は何をするのか?
お金の創造と国民資本
キプロス危機――資本税と銀行規制が力をあわせるとき
ユーロ――21世紀の国家なき通貨?
欧州統合の問題
21世紀における政府と資本蓄積
法律と政治
気候変動と公的資本
経済的透明性と資本の民主的なコントロール

■おわりに
資本主義の中心的な矛盾――r>g
政治歴史経済学に向けて
最も恵まれない人々の利益

「トマ・ピケティ: 21世紀の資本論についての新たな考察」TEDでのスピーチ

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