映画『パリ20区、僕たちのクラス 』移民の多い学校を見て「文化の継承と負の連鎖」を学ぶ

フランスと日本、都会と田舎、中上級階級と庶民など、さまざまなはざまで生きてきた境界人であるため、他の人と違う視点を持った著述家として活動しています。コラム執筆などの依頼も請け負っております。

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映画『パリ20区、僕たちのクラス 』移民の多い学校を見て「文化の継承と負の連鎖」を学ぶ 教育関連
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はーい(^O^)/Ulalaです♪今日は、フランスの映画で学ぼうだよ~

twitterを見ていたら、2008年のフランスのドラマ映画、『パリ20区、僕たちのクラス』(フランス題名 Entre les murs)のことについて、「いじめ問題」を扱っている、と書いてあるのがあって、

この映画、いじめ問題を扱った映画ではないよ。フランスにいる移民の子供たちの困難な状況と、それを教える先生の困難さを描いている映画だよ。

と思ったので、もう一度、見直してみることにしました。

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映画『パリ20区、僕たちのクラス』のストーリー

映画の中の、パリの移民が多く住む地域のある中学校のあるクラスは、出身国の異なる24名で構成されています。

文化も経済状態もフランス語のレベルさえさまざまな生徒たち。そんなクラスで国語(フランス語)教師のフランソワが授業をしている様子を描写し、フランスに住む移民の子供である生徒たちがどのような問題を抱えているかが詳細に描かれる!

第61回カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞したこの映画はフランスでの150万人動員し、ヨーロッパ、アメリカで大ヒットを記録しました。映画は、教室という小さな空間の中に、現在、世界各地で起こっている問題を見事に描き出していたため、教育現場を中心に大きな議論を巻きおこしたのです。

評論家の一致した見解は「エネルギッシュで明るいこの作品は、ドキュメンタリースタイルとドラマチックなプロットのハイブリッドで、都心近接地域(スラム地区)の高校の教師と生徒たちの交流を通して、フランスの現在と未来を見つめている。」と高評価。

まさに、評論家がおっしゃる通りの内容です。いじめの描写などはでてきません。

パリ20区、僕たちのクラス - Wikipedia

この話は、原作者のフランソワ・ベゴドー氏が、実際にパリ19区にある、モーツアルト中学で働いていた時の出来事がベースになっています。この中学は、優先的教育地域ZEP (zone d’éducation prioritaire)、「貧困層や移民の割合が多く問題を抱えている学校」に指定されていました。

2006年に本が出版されていますが、それ以前の学校の状況が描かれているのです。

ちなみに、フランスはこのように社会層が同じ生徒の構成では、格差が広がるとし、社会層を混ぜる政策を行っているため、現在はここまで移民層が固まっている学校は少なくなっており、モーツアルト中学も、2009年におこなわれた改革で、現在は多様な社会層が混ざった中学校へと生まれ変わっています。

フランスの移民の子供たちの実情

ここに出てくる生徒がどのぐらい問題を抱えているかというと、

参考に、フランスの地方に住んでいるうちの子供たちが行っていた中学校について考えて見ると、

うちの子供たちの中学では、最終学年前に成績等に問題がある生徒は職業訓練中学に転校を勧められていて、最終学年には子供たちの中学校からは姿を消していましたが、この映画にでてくる生徒たちは、ほぼその消えいく生徒たちにあてはまると思います。

子供たちが行っていた中学校は、一学年6クラスあり、転校勧められて生徒がいなくなる最終学年は多少各クラスの人数が増え5クラスになるのが普通でした。

そう考えると一般的な地方の学校では学校全体で約15%~16%ほどしか存在しない成績などに問題がある生徒が、このクラスでは大多数を占めている

そう考えると、その困難さがよく理解できます。

フランスの成績の感覚だと、20点満点中、16点以上が「優秀」。14点以上が「良」、12点以上が「まあまあ良」、10点以上が「可」、10点以下は「不可」です。バカロレアの合格ラインも10点です。

そこで、10点以下の生徒は、普通高校の枠のバカロレアでは不可になるため、職業学校の枠内のバカロレアを取得するために職業訓練中学に転校をすすめられるのです。

この映画の生徒たちは、数学で13点とれてとてもよいと褒められ、でもフランス語は9点。平均点が11.5点ぐらいの素行の悪い生徒など、かなり成績にもその他にも問題を抱えている生徒がほとんどというクラスなのです。

授業するにも、すぐに話が脱線して、教師はほんとうに大変です。

問題の一番の原因

こういった成績などに問題がでてくる、一番の原因は、生徒が移民の子が多く、

親から文化遺産を受け継いでないことです。

親もフランス語を話せなかったり、親がちゃんとした教育を受けていなかったり、と、フランスの学校に行くために学ばなければいけないことが学べていません。元々のスタートラインが違うのです。

フランス語も、あまり難しい言葉使えないので、半過去imparfait、 接続法subjonctif、を使った会話すらされていないようです。そのため、

「半過去なんて誰が使うんだ!使わない言葉習う必要あるのか?」
「接続法はスノッブの使う言葉」
「スノッブって何?」

という会話から映画は始まり、これだけでも、ネェイテブなフランス人はショックを受けることでしょう。

その上、兄弟が刑務所に入っていたり、違法滞在者で拘束されたりと問題はもりだくさん。

規則を守ること自体をよくわかってない

ここに来る生徒の大半は、学校の規則を守る意味がわかっていません。

・先生に暴言を吐かない。
・授業をちゃんと聞くこと。
・ノートや教科書を持って学校に来ること。
・暴力を振るわないこと。
・授業中に勝手に席を立たないこと。

これらの基本的な規則をちゃんと守ること学んでいない、もしくは身についていません。

しかし、フランスの規則は厳しいので、これらは停学の可能性もある行為です。

そこで、規則違反が何回も続くことになり、退学を言い渡され、他の学校への転校を余儀なくされる生徒もいます。

しかも、そのようにして何回も転校する生徒もいるのです。

生徒代表という立場になる意味がわからない

フランスには各学期の終わりに「成績会議」というものがあります。各生徒の成績を教師たちが総合評価しますが、その会議には、親代表と生徒代表が出席します。

フランスには、日本のように委員などという制度はないので、生徒代表は、クラス内で唯一の役職と言っていいでしょう。そのため、通常ではクラスで成績が良い子や信頼がおかれている生徒がなる役職あり、立場を理解している子がなるものです。

しかし、映画では、その意味もわからない生徒が代表になり、先生が成績会議で生徒について語っていることをまるで「つげ口」のように言われていた生徒に流布しまくるのです。カオスです。こんな状態は、普通とされる中学校ではほとんどありえないでしょう。

ちなみに、日本の小学校などでは、給食委員、図書委員、保険委員、学級委員と、いろいろな役職が用意されていますが、その役職を持つことで、その立場になった時の責任などを自然に学ぶことができ、よくできるシステムだなと思います。しかし、フランスでは、小学校でそういうことをしている学校は稀です。よって、家庭で学べない子は、学ぶチャンスも限られてくるでしょう。

言葉尻ばかり捉えて攻撃する

映画の中にこんなシーンがあります。

先生が「ぺタス」といった言葉を、生徒が聞いて怒りだすのですが、これはフランス語をよく理解しているフランス語教師と、スラングしか知らない生徒で起こるギャップとも言えるかもしれません。

昔は、「ぺタス」は「売春婦」という意味あいが強かったのですが、現在は、「下品な」という意味合いで使われることが多くなっています。

pétasse — Wiktionnaire, le dictionnaire libre

先生は「下品な」という意味で使ったのですが、多様な言葉で罵倒される言葉としてしか知らない生徒は「売春婦」と言われたと受け取ったのでした。

しかし、この言葉を使ったことで先生も処分にあいます。

普通の学校でももちろんそうですが、こういった学校では特に、意図は違っても誤解される言葉は使うことは避けるようにしなければならないのです。

先生が悪く評価するのは、自分への復讐だと思ってる

ギャングや道端の不良が多い地域で育つと、「悪口=自分」への復讐と理解されています。

しかも、「先生が悪い成績を悪い評価すること=悪口」なのです。

学校のシステムがまったく理解されていません。

レベルの低いギャングや道端の不良の規則で、全てが解釈される感じです。

学校で勉強する意味がわからない。働きたい

そして、最後に、女子生徒が先生のところにやってきます。

「この一年、私は何も学びませんでした。」

中学校の最終学年にも行きたくないといい、働くことを学びたいというのです。

親から勉強する意味を家庭で学ぶことなく、勉強した後に得られる目標となるモデル的人物も回りいない。学校で勉強を習う意味がわからない。

そんな状況の子供たちがたくさんいるのでした。

まとめ

このように、フランスでは、特に十分な教育を受けてない親を持つことなどで文化遺産」を家庭で受け継げず、いろいろと問題がおきたり、学校を退学になったり、学校に来る意味がわからないなど、「負の連鎖」が起こっています。

これは、移民の多いフランスだけの話かと言えば、そうともいいきれません。もちろん、日本でも移民が多い地域では、日本語を話せない子もいて、同じような問題を抱えているといいます。

また、それだけではありません。日本人でも、親にちゃんと世話してもらえなかった人が、学校にもなじめず中卒になり、その人が親になって子供を育てても、自分が教えられてないから子供にも学校に行って学ぶ意義とか教えられず、子供も同じように学校にいかないケースなど、フランスの移民家族が抱えてている問題と類似した結果がみられることもあります。

映画を見ることで、そういった状況の生徒たちを少しは理解できるようになるかもしれませんね。

でわでわ、また明日~(^^♪

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